Medical Box
無カタラーゼ血症
田中 恒男
1
1東大
pp.41
発行日 1963年8月1日
Published Date 1963/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202593
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私どもが関係している健康相談部には,時々真剣な顔つきをしたおかあさんやら,若い女性が"家の子どもが中学生なのに,まだ時々おもらし--夜尿をするのです.もしかしたら遺伝でも……"とか"近いうち結婚しようと思うのですが,私が,ひどい腋臭なのです.私のは手術しますが,もし生まれる子供に遺伝でもすると…"などといった訴えで相談に来室されます.なるほど,聞いてみればもっともな悩みなのですが,色盲などとちがって,このような遺伝ははっきりしない部分が多く何ともお答えできない場合が多いので困ってしまいます.
遺伝学は戦後急激に進歩しました.といってもこれは実験遺伝学の,領域のことで.人類遺伝学,ことに機能面,体質面の遺伝学は戦前と比べてそれほど発達していません.その理由は人間の一代が,ショウジョウバエやダイコクネズミなどに比べて長すぎますし,生活環境の固定ができないため,観察がじゅうぶんできないからなのです.しかし,その中でも医学者の努力と,近代医学技術の発達は新しい遺伝病のいくつかを明らかにしてくれました.岩手医大の田村教授らの報告された遺伝性異常血色素症(俗に血黒--チクロ,黒子--クロコなどとよばれる)や岡山大学の高原教授の報告された無カタラーゼ血症などはその輝かしい金字塔の代表的なものでしょう.
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