書評
—ロブサン・ランバ 著—「第三の眼」
松本 一郎
pp.42-43
発行日 1957年10月1日
Published Date 1957/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201351
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霊雲にただよう医術
最近の映画では,祕境探険実録物にかなり好評がよせられているようだ.アジアの未開諸国をめぐつたもの,インカ帝国の記録,あるいは昨年あたり流行した海底探険物も,祕境という点では同じだし,南極大陸観測もヒマラヤ登頂も,未踏の場所に足跡を刻んだという意味で祕境探険のひとつである.「マナスルに立つ」という登山映画のなかに,いよいよこれから本格的に山のぼりしようというとき,妙な土人(といつてもクロンボではない)が沢山でてきて,山の神聖をけがされると反対した場面があつた.結局,槇隊長以下ニツポンの探険隊は,何十万か何百万かの金をはらつて山のぼりを認めてもらつたわけだが,土人たちはその金で彼らの神の礼拝堂を作るとかいうことだつた.熱烈な神仰の国である.ヒマラヤ山脈につらなる平均標高4000メートルのチベツト高原には,今でも不思議な,未開神祕の国々が多い.しかもこのチベツトの民族は,文明を拒絶し,自分たちの神と風習と生活をかたくなに守り,ひどく排他的なので,その内部はよういにのぞきみることができないのだ.
ところでロブサン・ランバという男の書いた「第三の眼」という本は,その祕境の内部を私たちに知らせてくれる面白い記録である.それも文明国の探険家がのぞいたチベツトの様子でなくて,チベツトに生れチベツトに育つたキツスイのチベツト人の手記なので興味ぶかい.
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