短歌のまどい
短歌入門(7)
長沢 美津
pp.58-61
発行日 1956年4月1日
Published Date 1956/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201042
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Ⅰ.百人一首(小倉百人首)
百人の歌人から一首ずつ歌を撰んで百首を集めたものを百人一首という.これは百首歌という一人で百首詠むことから思いついた新しい多彩で興味のある形式である.百人一首のはじめでもあり一番ゆきわたつているものに小倉百人首がある.これは藤原定家が歌を撰びそれぞれの歌人の像を描いた色紙に書きいれて京都郊外の小倉山にあつた自分の住居の襖障子にはつたということが云い伝えられていて「小倉山荘色紙和歌」ともいう.現存する百人首は九百種はあるとのこと,現在までも種々の意味を持つものが作られてはいるが小倉百人首を凌ぐものは未だ出ていない.このことは百人首といえば小倉百人首を指すことが常識となつていることでもわかる.(百人首と「一」を「人」のなかにこめて発音しないのが普通である.これは室町,江戸時代から呼び慣れた云い方である.)
この百人首が定家の撰んだ近代秀歌や秀歌大略の歌と一致するものが多いので定家が撰んだものがもとになつていることは明らかである.大体に温雅で声調のよいものが集めてあり年代順に並べられてあるので簡単な和歌史を辿ることにもなるわけから和歌の入門書としても扱われて来た.作者は各階層にわたり天皇8人,僧侶15人,其他公郷,殿上人,地下,また女官,人妻を含む21人の女性の歌も見られる.部類別には春6首,夏4首,秋16首,冬6首,恋46首,離別1首,雑20首となつている.
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