短歌のまどい
短歌入門(4)
長沢 美津
pp.48-52
発行日 1955年12月1日
Published Date 1955/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200970
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Ⅰ 短歌と象徴(万葉第3期)
抒情と写実は表現上の2つの大きな方法であるが,その次に表現以後ともいえる象徴の段階がある.短歌のように短いものは事柄を完全に表現することは不可能であるから本来象徴性を多分に持つている.
万葉も第3期ともなると最盛期の充実したあとを受けて,一層の完成へといそぐのである.この期の代表に大伴家持がある.家持は旅人の子であつて古くから万葉の編纂者の1人にあげられている.彼自身が山柿の門に学ぶと記しているように山辺赤人や柿本人麿の歌風を身につけ,幼時からその周囲には当時の文化人が群つていたので,広く学び綜合し自然に技巧的にも複雑さを加えたのであつた.それが即ち万葉末期の歌風を忠実に表していることにもなるので,人麿の迫力,赤人の純粋性,億良の人間味が調和され統一されて,個々の格調は弱くなり色彩は不鮮明となつたが,一種独特な,か細い優婉なものが生れた。「悽惆の意,歌に非ずば撥ひ難し」といつて作つた
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