短歌のまどい
短歌入門(6)
長沢 美津
pp.62-65
発行日 1956年2月1日
Published Date 1956/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201009
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Ⅰ.王朝の女流文学と歌
平安朝の文化の最も華やかな時は国文学の上でもすばらしい作家をのこした.この期に物語,随筆,和歌の代表的なものが女流の作家によつて書かれたことは当時の生活様式と切り離しては考えられない.一条,三条,後一条頃の後宮文学として,紫式部の源氏物語,清少納言の枕の草子そして和泉式部の歌人としての作品のめざましさをあげることが出来る.
その頃女性が如何に文学と関係が深かつたかということは後宮が当時の政治的桧舞台であつたことによるので,枕の草子にも見られるように「よきに奏したまへ啓したまへ」とあるのは種々の頼みをする男性達よりの依頼を女房達がとりなし扱つたのを記しているのである.女房とは宮庭の大きな一区劃であつてそこには皇后,中宮,その他の女官に至る女の人々の住んでいる建物を指していう言葉であつて,宮庭では男性としては天子のみが住まわれたのである.この中で女性の歌は生活的に生れ出たのであるといつても差支えなく女子の生活は歌で解決された面が多かつた.寝ても醒めても立つても坐つても歌がつきまとつた.殊に祭礼饗宴などいわば宗教的の意味も加つていてそれだけに根強いものがあつた.
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