映画
女の獄舎—解説
野一色 武雄
pp.42-44
発行日 1954年7月1日
Published Date 1954/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200648
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この映画の原題は「名のない女達」となつている.「女の獄舍」というと何か犯罪をおかした女達の収容所を思わせるが,ここに集まつている女達は必ずしもここへ収容される前に罪を犯したわけではない.罪なくして収容所に入れられ,あたかも犯罪人のように自由を奪われ,一般社会から隔離され,すべての楽しみ喜びから隔絶された生活を余儀なくされているところに悲劇のもとがある.監督のゲーザ・ラドヴアーニはハンガリー人であるが,戦後は祖国を離れヨーロツパ諸国を歴訪し第二次大戦の生んだ悲劇,戦争の遺産としてのこされた数々の悲しい物語をつぶさに見聞し,第一作「ヨーロツパを何処かで」をはじめとし,この映画の中でも戦争というものがいかに罪なき人々を悲みの坩堝に巻きこむとかいう事実を描いている.この映画にはわれわれに解りにくい点がふたつある.そのひとつはこの映画の舞台となつているトリエステという都市の特殊性で,他のひとつは身分証明書の重要性である.トリエステに関してはしばしば新聞,ラジオ等のニースでも報じられている通り現在なお国際的な管理のもとにあり,最終的な帰属が決定されるまでには今後なお幾多の迂余曲折が想像されている.ひとつの都会,ひとつの地域が二,三の異つた国の管理下におかれる例は,最近ではベルリンにも見られ,かならずしもトリエステだけの問題ではないが,住民たるものの迷惑は想像に余りあるものがある.
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