映画評
"雁"
長谷川 泉
pp.30
発行日 1953年11月1日
Published Date 1953/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200480
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森鴎外の傑作といわれる長篇小説の映画化で,監督は久しく沈滞を續けていた豊田四郞である.鴎外作品の映画化では「阿部一族」に次ぐ第2作である.文藝作品をオリジナルとした映画化には,原作が害される場合が多いが,この映画では原作の筋を追いその味わいを表現するのに努力し,しかも成功しているといえる.
この原作および映画で設定されている主題は,世間知らずの女性が妾生活の間に次第に世のつめたい現実にふれ,そのうちに純情な大學生とふとしたことから知り合うことによつてきざしたほのかな愛情をとおして,自我にめざめてゆく点にある.お膳立てとしては明治時代の封建的な名殘のなかにある女性のめざめぬ忍從の生活から,女性の解放がうたわれるのであるから,近代的なモラルにつながるものがあり,經濟的な束縛のためにめざめることのできない日陰の女性が現代でも多い点から見て,共感を呼ぶ点が多いと思う.
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