教養講座 小説の話・9
森鷗外の「雁」
原 誠
pp.182-184
発行日 1957年4月15日
Published Date 1957/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910333
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(森)鴎外は文久2年(明治維新の6年前)に,石見国(島根県)の津和野町で生れました。鴎外の家は,代々,津和野藩主亀井家の典医でしたので,彼も医学をおさめるために上京,明治14年に東大を卒業しました。
文学者としての鴎外の活動は,ずいぶん早くからで,樋口一葉が「たけくらべ」を書いた頃には,すでに幸田露伴や斉藤緑雨とともに,文壇の最高権威の座にすわつていましたが,はじめは,ヨーロツパの浪漫主義を,わが国に紹介するところから出発したのです。陸軍衞生制度調査および軍陣衞生学研究のために留学を命じられた彼が,満4年にわたるドイツ留学をおえて,帰朝後はじめて発表したのが,「於母影」という詩集で,これは主として,ドイツ浪漫派の詩の飜訳紹介でした。つづいて,「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」など,浪漫的な香気にあふれる小説を書き,また,「水洙集」におさめた飜訳小説の数々や,名訳「即興詩人」をうみ,きらに西欧の文芸学や,美学などの紹介にもつとめたのです。
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