名詩鑑賞
夏の歌—與謝野晶子
長谷川 泉
pp.50-51
発行日 1951年8月15日
Published Date 1951/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906912
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終戰後與謝野晶子の名前がクローズ・アップされたのは旅順包圍軍のなかに加わつている弟を嘆く「君死にたまうことなかれ」の詩を以てであつた。これは大膽極まる反戰詩であつて,當時の軍國主義一色のなかにあつては,ヒューマニズムを根底とする思い切つたこの抵抗は普通の覺悟では出來ないものであつた。大町桂月の如きは,彼女を國賊とののしつたのである。
堺の菓子商の家に生れた晶子の胸の中には,自分の思うところを誰はばかるところなく言つてのける大膽な逞しさがひそんでいた。彼女の名前を高からしめた處女歌集「みだれ髪」に見られる濃艶な空想,激しい情感は,女性のしとやかな心根からはおそらく發表をしぶるていのものであろう。
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