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はじめに—子どもたちにとっての電動車椅子
本邦における小児電動車椅子は,1995年に繁成によって開発された室内用電動車椅子いーカート1)が最初である.開発に至った経緯として繁成は,1987年に参加した米国とカナダでの研修がきっかけであり,研修のなかで重度障害児に対して幼少期から電動車椅子を用いることで自ら動く体験を通して自発性やコミュニケーション能力が向上するといった考えに触発されたと述べている.しかし,当時の小児リハビリテーションは,正常運動発達を促すため,子どもたちの身体に外的操作を加えることで,中枢神経系ネットワークを書き換えられるという神経生理学的・神経発達学的アプローチが主流であった.そのため,いーカートが普及するまでには至らなかった.
筆者はファシリテーションテクニックという考え方を否定はしないが,子どもたちの置かれている環境に電動移動機器(power mobility device:PMD)が果たす役割を臨床場面から数多く学ぶ機会を得てきた.なかでも自己主導的な移動(self-produced locomotion:SPL)は,さまざまな試行錯誤をもたらし,環境との相互作用のなかで身体および認知機能の成熟に影響を与え,運動学習を可能にすると考えられる.さらに,自ら動くことは自分の有能性を育み,意思決定を可能にすると考えられる.
小児の電動車椅子は,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長障発0323第32号「電動車椅子に係る補装具費の支給について」2)の通達では,重度の歩行困難者の自立と社会参加の促進を図ることを目的として行われるもので,学齢児以上であって,電動車椅子の安全走行に支障がないと判断される者が対象であると明記されており,学齢期以降に支給する自治体が大部分を占めている.令和6(2024)年4月30日障発0430第3号「電動車椅子に係る補装具費の支給について」の廃止について3)の発令があったが,詳細は何一つ書かれておらず現場では対応に苦慮している.
本論文では,電動車椅子を単なる移動するための機器ではなく,発達保障の立場からひもといていく.
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