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はじめに—バギーという呼称と歴史
バギーは,補装具費支給制度の「車椅子」で基本構造の分類では「車椅子手押し型」に属している.説明では「原則として介助者が押して駆動するもの.(折りたたみ式又は非折りたたみ式)A大車輪のあるもの,B小車輪だけのもの」と示されている1).その基本構造に加えてリクライニングやティルト機構などを備えていれば,車椅子リクライニング式手押し型または車椅子ティルト式手押し型となる.一方,日本産業規格(Japanese Industrial Standards:JIS)T9201の形式分類では,介助用の特殊形にバギーという文言が見られる.「特別な使用を目的とした介助用車いすで,介助用標準形,介助用座位変換形,介助用パワーアシスト形,介助用室内形,介助用浴用形以外のすべての車いすを含み,携帯用,運搬用及び,バギーなどを含む」と記載されている2).
このように今は補装具支給制度とJISで分類されているが,バギーの名称が用いられて浸透するきっかけになったのは,およそ50年前に発売されたパシフィックサプライ社のリラックスバギーではないかと推測している.パシフィックサプライ社で企画,製造されたリラックスバギーは,販売後10,000台を突破して多くの肢体不自由児の日々の移動を支えるだけでなく,修学旅行ではバスだけではなく新幹線も利用できるという交通機関の選択肢を増やすという広がりもあった.リラックスバギーは幼児用から大人用までの数種類のサイズ展開に加え,支持部の寸法変更などのオーダー性や日除け,ベルト類などの付属品も備えており,その後のバギー製品の基軸となるものであった.
リラックスバギーという歴史的で象徴的な製品を源流に,その後「工房バギー」という通称で座位保持装置の構造フレームが開発・販売される.バギーという呼称は,肢体不自由児で車椅子を自分で漕ぐことが困難な児童の移動具の代名詞になっていったと思われる.
当時の多くの車椅子やバギーは,折りたたみやすく軽量で持ち運びやすい簡便に使用できるという基本性能をベースにして,バックサポートと座シートは,(一部の輸入品の車椅子を除き)ほとんどの製品は一枚もののキャンバスシートで構成されていた.座位保持装置の身体支持部でも平面形状型が主流であり,これは当時の姿勢保持の考え方と技術的な流れでもあったように見える.
2000年頃には,国内メーカー(株式会社きさく工房)で,背座シートに張り調整機能や成長対応機構,そしてティルト機構を備えた肢体不自由児を想定したバギー「RVpocket」が販売された.ティルト式の車椅子は,当時の補装具支給制度(車椅子の形式)の分類にはない形式であったが,ティルトという構造自体は,それまでも肢体不自由児の座位保持装置でリクライニング型のバリエーションの一つとしてオーダーメイドで数多く製造されていた.RVpocketは,手押し型車椅子の製品としては市場になかったティルト式ということもあり,多くの利用者に選ばれることとなった.
ただし,当時の制度では『ティルト式』という分類がなかったため,しばらくの期間はリクライニングの一種として「車椅子リクライニング式手押し型」で処方・判定されていたが,その後,車椅子の制度が拡充して,さまざまな基本構造や形式が加わることになる.
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