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なぜ自分がリハビリテーション科医を選択したのかよく聞かれるが,明確な答えが思い出せない.①これから伸びる分野である,②専門とする医師が少ない,③患者さんと長く密に接することができる,④スポーツ好きである,という理由が挙げられる.結局は勢いで決めたというのが真実である.また,祖母が脳卒中で片麻痺になり,小学生時代に一緒に歩行練習をしていたことも少なからず影響しているかもしれない.大学が産業医科大学で,幸運(?)にもリハビリテーション医学講座があり,学生時代から系統講義を受けたはずである.この時点で学生時代は真面目に授業を受けていないこともわかるであろう.当然再試にもかかり,試験前にわからないところがあり医局に質問に行った.暇そうな年配の先生が一人医局にいたので,質問するとすごくわかりやすく説明してくださった.後にこれが緒方甫教授だったことが判明(講義は終わっていたのに教授の顔も知らないとう愚かさ)した.今,私と同じような学生に会うときっと激怒するであろうが,当時から先輩リハビリテーション科医は優秀でかつ寛容な先生が多く,こんな私が入局しても優しく指導していただいた.入局時に優秀な先輩が多いと感じたが,それもそのはずで今のリハビリテーション医学会を牽引する先生たちが数多く在籍し,その薫陶を受けたことは私にとって大きな財産となっている.緒方先生からは,「リハビリテーションマインドが大切ですな」と事あるごとに言われていた.当時の私には,その言葉の本当の意味もわからない浅はかさであったが,ようやく最近になって言葉の真意がわかりかけてきた.簡単なようで難しい言葉であるが,今では私もよく使うフレーズになっている.
そんな難しい学問なので,われわれの世代で最初からリハビリテーション科医を志した医師たちは,初期の数年は「このままでいいのか」と悩むことも非常に多かった.私自身も整形外科や循環器科が華やかに見えて転科しようか最初の数年は真剣に悩んでいた.確立していない分野であるがゆえに周囲からの理解も得られがたく「最初からリハビリテーション医にならずに他科を経験してからなればいい」とか,ひどい時には「医者がやる分野ではない」といった言葉を浴びせられた友人もいた.しかし,ようやく時代が追いついたのか,リハビリテーション科医の知名度や認知度も上がってきたと感じることが多くなった.リハビリテーション医学講座がある大学も増え,入局者数も徐々に増えてきた.学生時代からリハビリテーション医学をしっかりと教育することが大切である.他科の医者や学生にも患者をよくするにはリハビリテーション医療が必要であるということが広く認識されてきたためだろう.医師不足の静岡県ではリハビリテーション科医が不足しているため,各地域からのリハビリテーション科医の要請に応じることができなかった.そこで静岡県の行政と医師会と協力して,リハビリテーション医療を理解する開業医の先生を育成する事業を開始した.それがリハビリテーションサポート医制度である.地域を支える開業医の先生は,リハビリテーション医学を学生時代に学んできていないので,リハビリテーション医学を学ぶ研修会を企画した.リハビリテーション医療の仲間を増やす取り組みで数百人のリハビリテーションサポート医を育成することができたが,今後どう活かしていけるのか思案中であり,皆様からのご意見もぜひお伺いしたい.
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