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目覚しい医学の発達は,二つの忘れられない画期的な出来事を介して,化膿性骨髄炎による死亡率の様相をも一変した.その第一は,近代医学の恩人といわれるL. PasteurやR. Kochらによる細菌学の進歩であり,また,Pasteurの学問を実地面から裏打ちしたJ. Listerの防腐法が広く採用されるようになってから,最初の死亡率激減をみるようになったことである.細菌学が当時の医師に普及し,防腐法が応用された前後の感染症治療状況を調べると,次の事実が判明した.つまり,前に起きたクリミヤ戦争(1853〜1856年)では,フランス軍309,268人中,感染症と考えられる傷病で死亡した者は,3.23%を算えたが,後の日露戦争(1904〜1905年)におけるロシヤ軍では,0.35%に過ぎないという驚異的な成果が得られた.また,クリミヤ戦争の際,フランス将兵で大腿骨複雑骨折に対し,切断を実施された者の方が,しなかった者の68.38%よりも,91.89%と圧倒的に多い死亡を記録にとどめ,その多くが感染によったようである.化膿性骨髄炎の死亡を次いで減少させた第二の事柄は,P. Ehrlichのサルバルサン開発に端を発する化学療法の進歩である.ことに,A. Flemingらのペニシリン,S. A. Waksmanのストレプトマイシン以来の抗生剤の開発によって,化膿性骨髄炎に罹患して死亡する例を,あまり経験しなくなった.
さて,臨床医学の今日的課題は,伝染病や感染症のことではなく,成人病対策につきるといわれている.たしかに,化膿性骨髄炎の死亡は稀有なものとなったが,重症の糖尿病を併発して,難治性の慢性となって再発を繰り返し,足を切断しなければならない症例や,頻回に再発する瘻孔に扁平上皮癌を合併するケースを扱うようになった.このような症例は,かつてあまり経験されなかったことである.以上のように,化膿性骨髄炎が成人病対策の対象となるまでに,根治させることが急務となってきた.
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