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はじめに
2022年の文部科学省の学校基本調査では,小学校の児童数が6,151,000名,中学校の生徒数が3,205,000名であり,1948年の統計開始以降で最も少ない数字となった1).他方,不登校状況の小・中学生は,1991年度の66,817名から2022年の244,940名(小学生81,498名・中学生163,442名)と約3.7倍に増加した1,2).
文部科学省(1998)の不登校の定義は,「何らかの心理的,情緒的,身体的あるいは社会的要因・背景により,登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち,病気や経済的な理由による者を除いたもの」とある.不登校児童生徒への支援に関する最終報告書では,不登校児の支援・対応の緊急性に言及し,一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援を推進している3).別の報告では,不登校における発達障害は,20〜50%と高い割合で示され,不登校と発達障害の関連性は高い4-6).
これらの不登校児に対する支援として,学校内での包括的支援アプローチや行動論的アプローチなどの取り組みはあるものの,学校外での取り組みは限定的である7-10).特に,不登校児の自宅や部屋を訪問し,日常生活リズムや日常生活活動(activities of daily living:ADL)に踏み込んだ支援や対応に関する報告は稀有である.
現在,筆者らが支援を展開している広島県では,発達障害児の家族やその支援にかかわる人々から作業療法の希望が多かった.当時は,発達障害児が理学療法士,作業療法士,言語聴覚士(リハビリテーション専門職)から療育を受けるのに,1か月から半年待ちが当たり前で,十分な療育機会がなかった.そこで,筆者らは,2011年4月からリハビリテーション専門職を中心とした療育に特化した児童発達支援・放課後等デイサービスの通所支援事業所を広島市に開所した.しかし,通所事業所を開始して明らかになったことは,高校卒業後の支援の継続ができないことに加えて,通所事業所へ来ることができない子供が多数おり,その多くが不登校児であるということであった.そこで,不登校児をはじめとする発達障害児・者への切れ目のない支援を提供する目的で,いろは訪問看護リハビリステーション(以下,当事業所)を2015年3月からスタートした.
当事業所は,精神科訪問看護のサービス形態を利用し,大学附属病院や市民病院などの小児科医と精神科医からの指示書によって,訪問で作業療法を開始する.このサービス形態が実施できる職種は,保健師,看護師,准看護師,作業療法士と限られているものの,その利点は,サービスの対象となる児・者のみならず,その家族への支援も提供できる点である.これまで,不登校児に対する訪問作業療法には,13名の作業療法士がかかわってきた.そして,108名の不登校児に訪問作業療法を提供し,77名が通学を再開した.その中には,作業療法士の支援で通学が可能になり,中学・高校を卒業後,大学進学してから再び通学できなくなった事例への支援も経験した11).
筆者らは,これらの事例を通して,訪問作業療法が対象児・者の認知社会面とセルフケアの改善につながることを実感した.そこで,これらの事例を作業療法記録から対人関係や日常生活リズム(昼夜逆転状態,摂食間隔など)の変化などの改善点を調査した.さらに,Vineland Adaptive Behavior Scales Second Edition(Vineland-Ⅱ適応行動尺度)およびFunctional Independence Measure(FIM)スコアを訪問開始時と中学校卒業時で実施し,再登校に至る複数のアウトカムとの関連を分析した.
今回は,これまでの知見をもとに3事例を紹介し,不登校児に対する訪問リハビリテーションの有効性を報告する.
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