Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「あの日の声を探して」—ロシアの普通の青年コーリャの変容から見えるもの
二通 諭
1,2
1札幌学院大学
2札幌大谷大学
pp.231
発行日 2023年2月10日
Published Date 2023/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202760
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プーチン大統領による30万人を戦場に送り出す「部分的動員令」(2022年9月21日)の報を聞いて想起したのが,第二次チェチェン紛争(1999)に材を取った「あの日の声を探して」(監督/ミシェル・アザナヴィシウス:2014年/フランス・グルジア合作).筆者が本欄(第43巻第9号:2015年9月号)で「戦争の実相を失声症の少年と殺人兵器化する普通の若者をとおして描く」と題して紹介した作品である.札幌では,筆者もその一員である自主上映団体が2022年11月5日に本作の上映会をもち,「高い評判と同時に“ちょっと怖い映画”とも聞いていました.見るチャンスをつくってくれて感謝」,「えらい映画を見てしまった.ショックで何も考えられない」,「号泣した.ごく普通の青年が非人間的になっていくことがよくわかった」など,多くの感想をいただいた.本稿もまた,こうした声に連動する形で,戦争加害者であるロシアの普通の青年コーリャの変容に焦点を定める.ロシア軍に目の前で両親を殺され,逃亡の過程で弟を捨て,声を失った9歳の少年ハジ(写真)の顛末は割愛する.
チェチェンから2,300キロ離れたロシアのベルミ市.ギターケースを提げた19歳のコーリャが友達と談笑しながら歩いている.目の前でパトカーが停まり,コーリャは慌てて手にしていたマリファナを捨てるが,警察署に連行される.その先に待っていたのはロシア軍への強制入隊であり,殺人兵器へと自身を「変容」させていく「教育」であった.
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