巻頭言
「コロナと散歩の脳科学」について考える
降矢 芳子
1
1東京女子医科大学東医療センターリハビリテーション科
pp.933
発行日 2021年10月10日
Published Date 2021/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202325
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昨年春以降,コロナ禍で,屋内での三密を避けるため,にわかにアウトドアアクティビティが人気を集めている.なかでも最も手軽で安上がりなのは何と言っても「ウォーキング」=「散歩」ではないだろうか.かく言う自分にも,昨年春以降,週末に多摩川沿いを4〜5km上流まで歩き,電車で帰ってくる,という習慣ができつつある.土手に広がるグラウンドの試合の様子や流れる川面を眺め歩くうちに,いつの間にか日ごろのストレスが消えているのに気がつく.
NHKのTV番組で養老孟司先生は,コロナ禍で外出できないことによるストレスについてこう語っておられた.「脳内の報酬系であるドパミン回路は,脳が報酬を受けると喜んでドパミンを出すが,ドパミン回路は予定通りの報酬が入ってきても活性化しない.報酬予測誤差と言ってこれくらいの報酬が入ってくれば活性化されるというその予測がずれることでさらに活性が大きくなる.じっとしているのは当然のことしか起こらないから報酬系が活性化されない.そのため外出できないとストレスが溜まってくる」のだそうだ.報酬系には2種類あり,まずはドパミン回路が関係する,動物に備わった習性である「新しいものを追いかける」という「More」が根本にある報酬系だ.そうでない報酬系としてセロトニン回路やオキシトシン回路があり,英語で言う「Here & Now(今・ここ)」と言ったものから受けるおだやかな快楽の経路である.この2つの系の例として恋愛を挙げ,最初は非常にドパミンが働くがそれが日常に収まっていくためにセロトニンやオキシトシンの「Here & Now」に切り替わっていく,というものである.
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