Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
柳田国男の『妹の力』—民俗学と病跡学の接点
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.610
発行日 2021年6月10日
Published Date 2021/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202251
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大正14年に柳田国男が発表した『妹の力』(角川書店)では,「祭祀祈禱の宗教上の行為は,もと肝要なる部分がことごとく婦人の管轄であった」として,我が国では巫が女性だった理由を,次のように語っている.「この任務が,特に婦人に適すと考えられた理由は,その感動しやすい習性が,事件あるごとに群衆の中において,いち早く異常心理の作用を示し,不思議を語りえた点に在るのであろう」.
そして柳田が,そうした事例の一つとして挙げるのが,盛岡の東にある山村の家族である.数年前,この地方の富裕な旧家で,「6人の兄弟が,一時に発狂をして土地の人を震駭せしめた」事件があった.その家は,「遺伝のあるらしい家で,現に彼らの祖父も発狂してまだ生きている」し,「父も狂気である時仏壇の前で首をくくって死んだ」.「長男がただ一人健全であったが,かさねがさねの悲運に絶望してしまって,しばしば巨額の金を懐に入れ,都会にやってきて浪費をして,酒食によって憂いをまぎらそうとしたが,その結果はこれもひどい神経衰弱にかかり,井戸に身を投げて自殺をした」という.
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