Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ベケットの『ゴドーを待ちながら』—統合失調症的な要素
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.318
発行日 2021年3月10日
Published Date 2021/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202185
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1953年にパリで初演されたべケットのノーべル文学賞受賞作『ゴドーを待ちながら』(安堂信也・高橋康也訳,白水社)は,不条理劇を代表する作品と言われるだけあって,率直に言って何を言いたいのかわからない了解困難な部分の多い作品である.しかし,この戯曲の主人公のヴラジーミルが,もう一人の主人公のエストラゴンに向かって,「気でも違ったのかい?」と問いかけ,エストラゴンも「人はみな生まれたときは気違いよ」と言うなど,狂気との関連が示唆される作品でもあって,事実,『ゴドーを待ちながら』には,統合失調症を思わせる以下のような場面がある.
この作品は,ヴラジーミルとエストラゴンという二人の人物が,1本の木が立つ田舎道でひたすらゴドーという人間を待つという話だが,いったんその場を離れたエストラゴンが戻ってくるなり,「おれは呪われてるんだ」と言いながら,ヴラジーミルとの間で,次のような会話を交わしている.「やって来る」,「誰が?」,「わからない」「何人?」,「わからない」.
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