書評
外里冨佐江 著「宮沢賢治の童話でまなぶココロの寄り添い方」
川嶋 みどり
1,2
1日本赤十字看護大学
2健和会臨床看護学研究所
pp.205
発行日 2021年2月10日
Published Date 2021/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202162
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デジタル社会到来で,人と人との関係や関心を持つ度合いが薄まる傾向を憂いつつある矢先,COVID-19のパンデミックにより,社会的距離を保ちながらのマスク越しのコミュニケーションが当然となってきた.だからこそ,人のココロに寄り添い,相手の思いを想像できることがいっそう求められている.そのような時期に「日常のありふれた生活の一コマに目を向けてそこからさまざまなことを感じてもらい,それを言葉にし,イメージしてもらうこと」という本書の意図に共感した.題材として宮沢賢治の2つの作品を選び,それぞれに課題を提示しながら,その場で感じた思いを表現するよう組み立てられ,子をもつ母親,保育園の職員,医療系の教職員らの補助教材として,また,作業療法士教育の授業補助教材として活用されることを期待したワークブックである.
まず,著者の勧めに従い,声を出して賢治独特の言い回しを楽しみながら読んでみた.第1話の「翁草」の実物は見たことがないが,濃いえんじ色のビロードのような筒状の花びらを通して,小さな蟻の目から見えるお日様の光の色を思い浮かべ,都会の窓からは見えない景色と遊んだひとときであった.第2話の「やまなし」は,遠い昔,中学生だった次男が幾度も幾度も読み返していたことを思い出しながら,賢治風の不思議な表現にしばし浸った.私は,目下在宅自粛の身で,誰ともしゃべらない日も珍しくない昨今であったので,いっそう楽しく感じられたひとときであった.
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