Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』―火山噴火と環境問題
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.862
発行日 2002年9月10日
Published Date 2002/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109858
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昭和7年に発表された宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』は,主人公のグスコーブドリが,凶作を未然に防ぐために自らを犠牲にして火山を爆発させるという物語であるが,そこには,農民のために自己犠牲的な人生を生きた賢治自身の人生が投影されている.この作品は,火山局に勤める27歳の青年ブドリがさまざまな技術で農民の収穫を増やし,最後には自らの命を投げ出して冷害を防ぐという設定になっており,特に,両親を早く亡くして3歳年下の妹と二人だけが生き残る形にしていることには,農民を救う自らの晴れ姿を妹に見せたいという賢治の思いをうかがうことができる.賢治は,24歳で亡くなった2歳年下の妹トシのことを誰よりも愛していたのであり,グスコー・ブドリとネリという兄妹は,ミヤザワ・ケンジとトシという兄妹の相似形になっているのである.(ブドリとネリが10数年の別離の後に再会するという設定も,当時既に死の床にあった賢治の,10年前に亡くなったトシと来世で再会したいという願望の現れと見ることができる.)
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