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はじめに
Dementia Friendly Communityとは,認知症に対する偏見や差別をなくし,「Living well with dementia」を可能とする社会である.
Dementia Friendly Communityは,日本語では「認知症にやさしい社会」と訳される場合が多い.しかし,徳田雄人氏はこれを「認知症フレンドリー社会」と訳し,その意味を以下のように明快に説明している.「ここで使われているフレンドリーというのは,ユーザーフレンドリーという言葉のように,○○にとって使いやすいとか○○に適応しているという本来の意味」であり,「認知症があっても,日常生活や社会生活が不自由なく送れるような地域や社会というのが,本来のニュアンス」である.「やさしさの問題ではなく,どのような人の利用を想定しているのかという設計プロセスの問題」であり,「行政サービスであれば,認知症や障害があっても,等しく受ける権利があるというアクセシビリティの問題」である1).また,同氏は,「認知症対処社会」と「認知症フレンドリー社会」を対比させ,前者の基本理念は「社会的負荷の軽減」であるのに対し,後者の基本理念は「誰もが普通に暮らせる社会の設計」であること,前者の成果指標が「事件・事故・問題行動の減少,介護負担の軽減」であるのに対し,後者の成果指標は「認知症の人の生活の質(quality of life;QOL),社会環境のフレンドリー度,認知症の人の声の反映度」であるとしている2).
一方,Living Well with Dementiaは,2009年に公表された英国の認知症国家戦略の表題に掲げられたスローガン3)であるが,今日では英国にとどまらず,その理念の下に多様な活動が世界規模で展開されている4-6).日本語では,「認知症とともによりよく生きる」,「認知症とともによき人生を生きる」,「認知症とともに幸福に生きる」と訳されることが多い.いずれの訳も誤りではないであろう.しかし,重要なことは,その背景に,認知症であることによって,偏見と差別に直面し,普通に暮らすことが阻まれてきたという当事者の深刻な体験がある.そして,当事者らが偏見と差別の克服をめざして,自分自身の体験を語る活動を開始し,それがその後の世界の認知症施策に重大なインパクトを与えたという事実があることを忘れてはならない.
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