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はじめに
認知症ケアの拠点として認知症カフェが全国に増加しており,2018年度時点で全国7,000か所を超えた(図1).単純計算すると,人口2万人に1つのカフェがあることになる.認知症カフェが認知症ケアのプラットフォームとしてどのような意味合いをもっているか検討する前に,認知症という疾患を見直しておくことが重要であろう.
認知症には多くの疾患が含まれるが,その6〜7割はアルツハイマー型認知症であるとされる.物忘れ外来などの早期診断の場では,それに加えて,軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)と診断される患者も多い.MCIの段階で既にアルツハイマー型認知症が始まっていると考えられる場合も多く,MCI due to Alzheimer's Disease(AD)と診断される.
MCIの段階では一般的に,手段的日常生活活動(instrumental activities of daily livings;IADL)も大部分は保たれているとされており,近時記憶障害などの認知機能低下が一部に年齢相当を超えて認められる状態である.しかし,MCIの時期から本人や周囲の家族の喪失感や本人と家族のあいだの心理的軋轢が始まり,認知症とともに歩む道のりはそのあと5年,10年,15年と続く.
認知症のうち2割程度は脳血管性認知症であり,その場合は,新規の脳梗塞を発症することによって階段状に病気が悪化していくとされるが,脳血管性認知症の背景には動脈硬化や心房細動などの慢性疾患であったり,アルツハイマー型認知症との混合性であったりすることも多く,アルツハイマー型認知症などの変性疾患による場合も,脳血管性認知症の場合も慢性進行性疾患といえる.
では,そのような慢性進行性疾患においてリハビリテーションはどのようなかかわりが可能なのであろうか? 認知症の薬物療法としては,アルツハイマー型認知症に対してコリンエステラーゼ阻害薬などの進行を緩やかにする薬剤が使用されている.根本治療薬の開発もワクチン治療の可能性を示す論文などをきっかけに20年にわたり原因物質であるアミロイドβやリン酸化タウをターゲットとした薬剤の開発が行われてきたが,現時点で市販されている根本治療薬はない.一方で,非薬物療法として音楽療法,回想法,運動療法などが試みられ一定の効果を示しているが,補助的な活用にとどまっている.
また,認知症施策推進大綱で「共生と予防」と謳われているように,予防,すなわち,その1つとして認知症発症のリスクを減らすことについても試みが行われており,運動,脳トレ,栄養指導,生活習慣病管理を一体的に行うことやライフスタイルの効果が検討されているが,まだエビデンスを蓄積しようとしている段階である.そのような状況の中,認知症カフェはどのような役割を果たすのであろうか? リハビリテーションという視点で考えたとき,認知症カフェは保たれている能力を生かすことや生活の再構築という点に寄与することが期待される.その際にセラピストと本人という枠組みだけではなく,認知症カフェのもつ地域の拠点という性格や,本人だけでなく,家族や地域の人々のエンパワメントも通じたかかわりを念頭に置くことが重要である.なぜなら,認知症という疾患は記憶力の低下や意欲の低下を伴いやすく,一方で,パーソン・センタード・ケアでも示される周囲のかかわりが本人の生活の質(quality of life;QOL)にもたらす影響が大きいからである.認知症の発症頻度を考えたとき,誰もが認知症になる可能性があり,認知症への備えをしっかりと行っている社会をそれぞれの人が構築していくことが大切である.
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