Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「ミッドサマー ディレクターズカット版」—<病としての恋愛>は漂着した先でどんな姿になったのか?
二通 諭
1
1札幌学院大学
pp.909
発行日 2020年9月10日
Published Date 2020/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202044
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佐藤忠男の論考によれば,歌舞伎の絵看板の1枚目に位置するのは,男らしさの美徳を体現した者であり,恋愛をしない.恋愛は,男らしくない男がするものであり,その担い手は,絵看板の2枚目に位置する甘い美男子,いわゆる「二枚目」1).ここには,<恋愛は病気である>という思考が内包されている.恋愛は忠や孝など本来の義務を放棄させるからだ.このような恋愛観が廃れて久しい現代は,恋愛至上主義に覆われている.時に,恋愛依存など<病としての恋愛>も観察できる.フェスティバル・スリラーを謳う「ミッドサマー ディレクターズカット版」(監督/アリ・アスター)から捕捉してみよう.
開巻一番,ダニーは,両親と一緒に死ぬという双極性障害のある妹からのメールに不安を隠せないでいる.恋人のクリスチャンは,妹を甘やかしてきたからだ,姉の気を引こうとしているだけだと気休め的な対応に終始.ところが,ダニーの不安は的中し,家族のすべてを失う.家族の喪失から始まる本作は,「家族」の「再生」の物語でもある.
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