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I.はじめに
恋愛妄想を持つ患者は日常比較的多く経験される。しかしその様態は多様で,一方では明白な分裂病においていくつかの妄想主題の一つとしてこれが一過的にみられる場合から,他方では恋愛パラノイアと称するのがより適切と思えるほど人格解体の少ない症例もあり,年齢的にも20歳未満から50歳台にもわたり,婦人に比して比較的少ないとはいえ男子症例もある。したがって諸家は疾病論的立場から,あるいはまた中には発症年齢によってこれをいくつかに区分しようとした。われわれも何らかのかたちで多様な臨床例を整理する必要を感じ,従来の恋愛妄想研究とやや観点を変えて,恋愛妄想における恋愛がその当人にとって持つ意味に注目し,それを類型化することを試みた。いうまでもないが少しく恋愛妄想患者に了解的に接しようとする時,常にそのことを問題とせざるを得ない。その意味でこれは恋愛妄想のいわば治療論的研究でもある。また恋愛妄想における恋愛の悲喜劇性の中に,本来あり得べき出会いの欠如態とその戯画的補填をみる点で,広い意味で人間学的研究と称してよいと思う。
ところで恋愛妄想における恋愛の意味を問おうとする以上,了解可能性の高い症例から考察して行かざるを得ない。したがってここではまず方法的に了解可能性の少ない次のような症例は除かれた。それらはまたおそらくすべての学派によって分裂病と診断されると考えられた例でもある。すなわち,妄想対象が同時に複数であるもの,恋愛妄想以外に作為・影響体験など第一級症状(Scheneider1))の持続がみられるもの,超越的な内容の他の妄想の著明なもの,人格解体の著しいものなどである。結局残るのはいわゆるパラノイアないしはそれに準ずるかたちの精神病となった。それらの中にわれわれの見出した類型は3つである。この3つが上述の分裂病例にも妥当するかどうかは,後の機会に問題にしたいと思う。
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