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はじめに
脳性麻痺児にとって痙縮は,運動発達障害を引き起こし,運動能力の低下,関節の変形拘縮,側弯,頸髄症を引き起こすだけでなく,胃食道逆流症などの消化器障害や循環・呼吸器障害などを引き起こすといわれている1).そのなかで,脳性麻痺児へのA型ボツリヌス毒素治療(以下,ボツリヌス治療)は,痙縮筋への治療効果が高いとされている.2001年の痙性斜頸,2009年の2歳以上の小児脳性麻痺の下肢痙縮,2010年に上肢痙縮・下肢痙縮と追加承認され,ボツリヌス治療の適応は拡大している2).
痙性四肢麻痺に対するボツリヌス治療後の運動療法としては,筋や関節の損傷に注意しながら,疼痛のないストレッチ方法の指導,拮抗筋の筋力増強練習,痙縮が軽減したなかでの運動制御や協調運動の獲得に向けた運動療法が中心となる3).また,麻痺性脊柱変形に対するボツリヌス治療の理学療法は,安楽な臥位や座位姿勢の獲得,疾痛の緩和,移乗時などの介護負担の軽減,閉塞性呼吸障害の改善を目標に行われる4)
ボツリヌス治療の適応は,痙縮あるいはジストニアの軽減による姿勢・運動機能の改善,疾痛の緩和だけでなく,介護負担の軽減や合併症の改善など,患者と介護者が実感できる何らかの実質的な日常生活動作(activities of daily living;ADL)や生活の質(quality of life;QOL)の改善を得るものでなければならない4).長澤ら5)は,重症心身障害分野におけるボツリヌス治療において,QOLの改善に結び付く明確なニードとチーム医療による標的筋の設定などのアプローチが必須であると述べている.
痙縮の軽減のみを治療目標としたボツリヌス治療は,長期予後の観点からもエビデンスが不明とされ,推奨されない6).そのために,リハビリテーションセラピストが医師と協働してボツリヌス治療の適応を判断し,その後の訓練方針を決めていくことも重要となる.しかし,医師とリハビリテーションセラピストが協働して行う評価やその後のリハビリテーションについて明確に述べられた報告は少ない.
横浜医療福祉センター港南(以下,当センター)では2016年の開所より合計332名に対するボツリヌス治療が行われている.このうち,リハビリテーションセラピストがかかわった症例は280名(84%)であり,評価およびボツリヌス治療前後の運動療法を実施しているため,われわれが行っている評価やアプローチについて概説する.
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