Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」—吃音女子高生が自己内闘争の道を歩み出すまでの軌跡
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.83
発行日 2019年1月10日
Published Date 2019/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201540
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「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(監督/湯浅弘章)が描いたのは,重い吃音障害を抱える女子高校生・大島志乃(南沙良)の入学から学校祭までの半年間の軌跡と到達点.
志乃が特に苦手とするのが母音.最初の自己紹介で,「大島」の「オ」を発することは最難関の課題だ.立ち往生しながらも「ス,スミマセン」は辛うじて出てくる.ここは,頭の言葉を変えるしか術はない.苦し紛れに「シノ…オオシマ」と発すると,本作において3番手の役回りを担うクラスメイトの菊地強から「外国人かよ」とからかわれる.菊地の志乃への侵襲はその後も続き,「大島さん,名前言って」と無理難題をぶつけながら,「オ,オ,オ,…」と吃音の口マネをする.菊地もまた過去にいじめにあっており,人気キャラになるべくもがいている.とはいえ,もがけばもがくほどクラス内で孤立を深める.自身の行動の振り返りと組み立てにおいて他者の視点が欠けているのだ.吃音障害者は時に菊地のような人物からの<ちょっかい>にも晒される.
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