「おんなの書」評
わが闘争—堤 玲子
若林 恵津子
pp.54-55
発行日 1968年10月1日
Published Date 1968/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203643
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結婚して子供を生む.五体健全でさえあれば,これはどんな女性にも与えられた自然の特権である.だが血統がわるい,たとえば,生まれる子どもたちのうち,必ず1人は白痴か不具者がいるという家系に,もし私たちが生まれついたならどうなるのか.しかもそこがスラム街の極貧の家庭であり,周囲はやくざと売春婦と人殺しの巣窟であったなら,のみならず,生まれた私が,たまたま白痴ではなく,人一倍冴えた頭と鋭い感受性を持ち合わせていたとしたら……….すでに世評の高い本書を,今月ここで取りあげたのは,こうした問題をはらんだ観点から,ずなわち「おんなの書」の立場から,この本を読み直してみたかったからである.
この著者は,すでにもう1冊「わが妹・娼婦鳥子」という本を出している.私が時どきのぞきにいく近所の本屋の店員は,「スゲェ本だそうですね」といって薄ら笑いを浮かべた.一般に,ハレンチであるとかショッキングなほどワイセツ,オゲレツな書であるとかいう俗評がいきわたっているようだが,そうした週刊誌的俗説に惑わされて,本書を手にした人は,この著者の秋霜烈日のごとき気魄と,はじきとばされそうなみごとな痰呵と,どこを切ってみても真赤な血が滴っているまぎれもない詩人の魂とに,圧倒されてしまうだろう.そういう意味では,まさしくショッキングな書であることに異論はない.
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