連載 ひそかに読まれている本・6
『その名にちなんで』
自分の名前が,ずっと嫌いだった
平尾 隆弘
1
1編集者
pp.111
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100346
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主人公ゴーゴリ・ガングリーは,ハイスクール卒業時,ある感慨に襲われる。
――人間は生きているうちに何度名前を書くだろう。百万回? 2百万回?
彼はインド(ベンガル)人の両親から生まれたインド系アメリカ人だ。ゴーゴリという名は父親がつけた。父は若いころ,列車事故で九死に一生を得たが,そのとき手にしていた本がゴーゴリの『外套』だった。いわば命の恩人の名前を息子につけたわけである。
ゴーゴリはいつしか「インド風でもアメリカ風でもない」自分の名前が嫌になってくる。幼少時には何の違和感もなかったのに,思春期になるとサインするのさえ気が重い。とうとう大学入学を機に「ニキル」と改名する。
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