書評
藤井克徳 著「わたしで最後にして—ナチスの障害者虐殺と優生思想」
岩井 一正
1
1神奈川県立精神医療センター
pp.73
発行日 2019年1月10日
Published Date 2019/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201536
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ナチス政権の時代にドイツでは「遺伝疾患をもつ子孫を予防するための法律」のもとで36万人の人間が強制断種された.手術の侵襲によって死亡したものも多い.ドイツの占領地域では,精神的,身体的疾患をもった25万人以上の人々が「安楽死政策(T4計画)」を適用されて殺された.精神科医をはじめ医者たちは,この政策に本質的に荷担し,自分たちに向けられていた信頼を裏切った.自分たちを信頼した人間の幸福よりも,他の価値を優先したのだ.精神科の専門学会はこの出来事に対して長くあいまいな態度をとりつづけた1).
「私が最初に抱いた,『なぜこんなことが』の大部分は,まだまだ闇の中です.社会の闇と心の闇が重なりながら,人類社会の前に横たわったままです.明確な答えがでるかどうかは別として,この闇に光を当て続けることが大事です.それがいまを生きる私たちの責務であり,何よりもおびただしい数の犠牲者に対する誠実な向き合い方かと思います.」著者はドイツから遠く離れた日本にあって,このような疑問をもって資料に取り組み,そして協力者とともに現地を訪れ,関係者と直接会って討論し,その結果がこの一冊となった.事件からすでに80年が経っていたが,それがなおもアクチュアルな問題であることを,自らの経験として,身をもって体験してきた.
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