書評
藤井克徳・田中秀樹 著「わが国に生まれた不幸を重ねないために―精神障害者施策の問題点と改革への道しるべ」
藤谷 順子
1
1国立国際医療センターリハビリテーション科
pp.898
発行日 2004年9月10日
Published Date 2004/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102751
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「わが国に生まれた不幸」というのは,呉秀三の「わが邦十何万余の精神病者は,実に病を受けたる不幸の外に,この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものと云うべし」からとっている.病気や障害者になった場合,本人や家族のQOLは社会環境がいかに整っているかにかかっている.ではその社会環境を,誰がどのようにして整えるのか,という問題を扱ったのが本書である.話題は精神障害者問題だが,すべての病気・障害に共通する普遍性を持っている.
本書の後半は,田中秀樹氏の「麦の郷」を中心とした活動の紹介であり,行政や地域住民にいたるまで,周囲の協力をどのようにとりつけ,ネットワークを作り上げてきたか,という地域に根ざした優れた実践の報告である.また,「不登校者の一部に病気が原因の場合がある」,「学齢期を越えると教育関係者の訪問もなくなり,そのまま家族のみの問題になり,何年も誰の目にも触れなくなってしまう」というように,不登校を一つのサインとした早期発見,早期リハビリテーションの必要性に触れるなど,今後の精神障害の発症・重症化予防にまで関係するバランスのとれた視点での指摘が多い.一方,そのような優れた活動でも,補助金はわずか公衆電話1台分の2分の1の費用だったりするのが現実であり,やはり行政を,法律を変えてゆく必要を感じさせられる.
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