連載 医学ジャーナルで世界を読む・11
ナチスのがん対策の「先進性」
坪野 吉孝
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1東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
pp.810-811
発行日 2003年11月1日
Published Date 2003/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100975
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学内外での講義,学会や研修会などで,話をする機会が多い.同じような内容の話を何度も繰り返していると,自分が壊れたテープレコーダーになったような気分に襲われることがある.定番の話題の一つは,βカロテンのサプリメントに関する,90年代半ばの一連の臨床試験の話だ(βカロテンを投与しても,非喫煙者ではがん予防の効果がなく,喫煙者では肺がん発生率がかえって上昇した).最近も2回ほど栄養士の集まりで講演したが,出席者の中でこの話を知っていたのは,1割程度に過ぎなかった.サプリメント・ブームの昨今,こうした「決定的に重要な研究」を,現場の栄養専門職の大半が知らないままでいることには危惧を覚える.ただしこれは,個人の努力不足というよりも,保健専門職の生涯教育における構造的な問題なのだろう.話す側は壊れたテープレコーダーでも,聞く側には初耳であれば,伝える意味はあると自分を納得させている.
●ナチスのがん対策
さて,今月もっとも衝撃的だったのは,ナチス・ドイツのがん対策に関する翻訳書『健康帝国ナチス』(草思社)だ.原題は“The Nazi War on Cancer”で,「ナチスの対がん戦争」といったところだろう.1999年に英文の原著が出版されて間もなく,『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載された書評を読んでいたので,本書の存在は知っていた.けれども最近出版された翻訳を読んで,ナチスのがん対策の「先進性」に驚かされた.
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