- 有料閲覧
- 文献概要
1968年.メキシコオリンピックそして,のちに映画「白い恋人たち」となったグルノーブル冬季オリンピックが開催された年.国内では大学の学生闘争のまっただなか,3億円事件の起きた年でもあった.わたしはまだ小学生だったが,この年の7月に日本義肢装具学会の前身である義肢装具研究同好会が発足した.さかのぼること5年,1963年に日本リハビリテーション医学会が発足し,その3年後1966年に「理学療法士及び作業療法士法」が施行され日本のリハビリテーションが本格的に始動した.1960年代はわが国のリハビリテーションにとってはまさにスタートの時代であり,その時の先輩たちの意欲とパワーが現在のリハビリテーションの発展を担ってきたと考える.1968年に発足した義肢装具研究同好会は1972年11月に日本義肢装具研究会と名称変更し,研修セミナーや学術大会を行い,1984年11月からは名称が現在の「日本義肢装具学会」になり,2013年に一般社団法人の認可を受けた.当学会は医師,セラピスト,義肢装具士,エンジニアと多職種が参加するわが国唯一の学術団体である.そして2018年,50周年という大きな節目を迎えた.私が神奈川県総合リハビリテーション事業団に入職した年に初めて学会出張に行かせてもらったのが日本義肢装具研究会だった.作業療法士以外の多くの職種が義肢装具に関した研究や臨床での実績を発表していて,非常に興味深く,とても楽しかった.神奈川リハビリテーションセンターにはその当時としては画期的なリハビリテーション工学科があったが,この義肢装具研究会への出張も私が義肢装具,福祉用具に深くかかわることになったきっかけの1つといえる.
義肢装具・福祉用具はこの50年で大きく発展してきた.特に最近ではロボットテクノロジーや3Dプリンターの進歩によって,ハード面での機能は加速的な進歩をしている.特に筋電義手はこの数年で飛躍的にその機能が進歩している.今までの筋電義手は母指と示指,中指の三指つまみが主流であったが,さまざまな把持形態やつまみができ,マウス操作も可能な手指機能を持ったものや,解剖学的にも「手」のかたちを再現し,見た目がとても自然なものが市販されている.しかし,どちらも非常に高価で実際にはなかなか使うことができない.この20年で筋電義手が価格表に載り,特定補装具として試験給付できるまでにこぎつけたが,その間に新しい機能の筋電義手が市販されるようになってしまった.さらに高額になった義手.日本で普及できるのだろうか,できるころにはもっと新しい機能をもったものが出てきて……いつまでたっても必要としている人にタイムリーに使ってもらえるようにはならないのだろうか.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.