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はじめに
加齢に伴う歩行機能の特徴的な変化は歩行速度の低下である.歩行速度低下には,バランスや筋力といった体力要素の低下が強く関連することはよく知られている.一方では歩幅の短縮,両脚支持期の延長,遊脚期での足の挙上の低下,歩隔の増大,腕の振りの減少,不安定な方向転換などとさまざまな徴候リスクとの関連性については詳細な検討が必要であると考える.本稿では,歩行速度のみならず歩行パラメーターと各種徴候との関連性を調べたうえで,各種徴候を有する集団に対する指導が歩行機能の改善に及ぼす影響について詳細に記述する.
歩く速さはさまざまな健康指標として活用され,多数のカットポイントが提案されている.アメリカでは普段の日常生活で必要とされる歩行速度の目安である横断歩道を渡りきる速さを1.22m/sと設定し1),1.0m/s以下になると下肢障害や入院,死亡の危険性が上昇することが指摘されており2),また0.8m/s以下はサルコペニア(sarcopenia)の診断基準の1つとして使用している3).このように,カットポイントには差があるものの歩行速度は高齢者の生活機能の自立や日常生活の良し悪しを判断する指標として幅広く採用されている.一方,歩行速度と6年間のADL障害との関連性を検討したShinkaiら4)の報告では,65〜74歳の前期高齢者の場合,通常歩行速度の低下(hazard ratio;HR=2.43)よりも最大歩行速度の低下(HR=5.15)が日常生活動作(activities of daily living;ADL)障害の危険性が高まるが,75歳以上の後期高齢者においては,通常歩行速度の低下(HR=6.18)が最大歩行速度の低下(HR=3.45)よりもADL障害の危険性が高いことを検証し,歩行速度の影響は年代によって異なることを指摘している.
Sauvagetら5)は1994年から1996年までの2年間,宮城県W地域在住65歳以上の男女3,590人を調査し,余命に対するADL,手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living;IADL),移動能力の自立期間を調べている.自立期間が最も短い機能はIADLである.移動能力の自立期間は65〜69歳男性13.2年,女性14.7年,70〜74歳男性9.6年,女性11.7年,75〜79歳男性6.7年,女性7.6年,80〜84歳男性4.6年,女性4.6年,85歳以上男性2.2年,女性1.7年と短いと強調している.このように,加齢に伴う歩行速度や歩行パラメーターの変化はさまざまな健康リスクと密接にかかわっていることから,いくつかの徴候に焦点を当て記述する.
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