Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
帚木蓬生の『閉鎖病棟』—心病める人々への畏敬
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.166
発行日 2017年2月10日
Published Date 2017/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200861
- 有料閲覧
- 文献概要
平成6年に帚木蓬生が発表した『閉鎖病棟』(新潮社)は,九州の片田舎にある精神科病院を舞台にした小説であるが,そこには,不登校でこの病院の陶芸室に出入りしている島崎という女子中学生が登場する.島崎は,母親の再婚相手である義父に性的な虐待を受け,そのことを誰にも言えぬまま,不登校になってしまったのである.
つまり,島崎の不登校の背景には,義父による性的虐待という深刻な家庭問題があったわけであるが,彼女はこの秘密を,陶芸室で親しくなった秀丸という高齢の入院患者に打ち明ける.かつててんかんによるもうろう状態の中で自分の母親を殺害したという過去を持ち,長い人生経験の中でたいていのことには驚かなくなっていた秀丸老人も,この話を聞いた時には背筋が凍る思いがしたが,秀丸老人は「私にならどんなことを言ってもいい,何があっても私は島崎さんの味方だから」と言って,彼女の話にじっと聞きいった.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.