Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「淵に立つ」,「湯を沸かすほどの熱い愛」—壊れもするし創られもする家族の現実と可能性を描く
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.167
発行日 2017年2月10日
Published Date 2017/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200862
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「淵に立つ」(監督・脚本・編集/深田晃司)は,第69回カンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞作として話題になった.本作パンフレットによると,深田の問題意識は,家族とは不条理なものであり,なぜ,ともに生きるのかという点にある.それは,昨今の家族の絆を強調する傾向や,父権的な家族制度への回帰をもくろむ動向への疑念でもある.
本作は,8年の時空を挟み前半と後半に分かれる.筆者が感心したのは,昔懐かしい昭和のよろめきドラマをほうふつさせる前半である.小さな金属加工工場を営む鈴岡家の妻・章江(筒井真理子)は,住み込みで働くことになった八坂(浅野忠信)に魅かれてゆく.そのよろめきのさまは,表出言語によらず,身体的な距離の変化として描出される.表出言語はコミュニケーション手段の一部でしかない.本作は,身体および身体的距離がもつ言語性をまざまざと見せつける.「よろめく」というのは身体の意図しない動きであり,平凡な主婦の<まさか私が>という恋愛行動に当てる言葉としても軽妙洒脱,合点がいく.
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