心の行脚・4
畏敬すべき先達
井口 潔
pp.102-103
発行日 1990年1月20日
Published Date 1990/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900016
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最近「回想の明治維新」という題の岩波文庫本を読んだ.昭和62年初版の最近の訳書である.その内容もさることながら,著者そのひとの生涯が強烈に私の心を把えた.著者はレフ・イリイッチ・メーチニコフ(1838〜1888)というペテルスブルグ生れのロシア人で,腸内細菌叢と乳酸菌製剤に関連して不老長寿論を唱え,1908年にノーベル賞をとったイリヤ・メーチニコフの実兄に当る,また,トルストイの小説「イワン・イリッチの死」の主人公はこの著者の長兄である.このような血筋の著者の50年の生涯は小説よりも奇なる波瀾に富むもので,明治7〜8年にわたり語学教師てして来日している.そのときの回想記がこの本である.
本人は不羅奔放な反骨精神の持主で,ペテルスブルグ医科大学を含めて関係の学校はすべて一年そこらで放校となり,亡命を続けるうち,ヨーロッパ各地で勃発する革命運動に参加し,特異の語学の才と思索のひらめきで革命指導者に知遇を得,独自の思想を精力的に400余編の論文に書き残したが,あまり後世に伝えられることはなかった.
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