巻頭言
福祉用具の開発と普及の課題
渡邉 愼一
1
1横浜市総合リハビリテーションセンター
pp.181
発行日 2016年3月10日
Published Date 2016/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200523
- 有料閲覧
- 文献概要
私の最初の福祉用具に関する臨床経験は,作業療法の臨床実習で担当したHさんの義手でした.Hさんは農家の主婦で,若いころに農機具に接触して一側の前腕を切断,能動義手で生活が自立していましたが,脳血管障害により健側が片麻痺となり入院されました.先輩の作業療法士,義肢装具士の指導を受けながら調理用の包丁が着脱できる手先具を完成させ,なんとか調理動作の目途が立ったことを覚えています.これが私の福祉用具の開発(?)の事始めでもあります.1987年に現職場に就職.訪問リハビリテーションの部署に配属され,福祉用具の研究開発部門の工学技士とともに福祉用具の適応や開発に携わることになりました.その後,諸先輩方の鞄持ちや仕事を手伝ううちに,福祉用具がライフワークになりました.
数年前から政府主導のもとで,ロボット技術を利用した福祉用具の開発・普及を促進する事業が始まりました.実用性の高い福祉用具(いわゆる「介護ロボット」)の開発を目指していますが,課題の一つが介護ロボットの安全性の確保です.既存の福祉用具は,使用者の心身機能や住環境などと福祉用具の適合を判断し,安全に使用できることを確認して導入します.開発される介護ロボットは,使用者や住環境との適合以前に,安全に作動・機能することが実証されていなければならず,開発プロセスにおいて福祉用具が使用される現場と製造者が連携する仕組みづくりが急がれます.とくに生活動作を得意とするリハビリテーション専門職との連携が重要です.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.