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はじめに
約40年前Lorber1)は,脊髄髄膜瘤(myelomeningocele;MMC)524例の検討から,積極的に治療しない場合として,排尿・排便障害を伴った完全対麻痺,広範な胸腰椎部病変,先天性後彎症もしくは側彎症,先天性水頭症,重症の出生時頭蓋内損傷もしくは脳内出血,神経系以外の重症な奇形の合併症がある場合を挙げた.当時の脊髄髄膜瘤の2年生存率は約60%であったがその後,コンピュータ断層撮影(computed tomography;CT)が普及して診断方法が確立,顕微鏡下手術が一般的になって,脊髄の形成術も行われるようになり,水頭症に対してシャント(脳室-髄液誘導術)システムの改良がなされるなどして2),中枢神経奇形への有効な治療ができるようになった3,4).さらに,20数年前より核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI)が登場,詳細な脳や脊髄の情報が得られるようになり,複雑な脊髄髄膜瘤への治療も始まった4).そして,新生児医療が普及し,重症な新生児の生命管理もできるようになり,それに伴い胎内診断5)による早期の評価,計画分娩,早期治療までも可能となった5).以上のような診断や治療・管理技術の進歩は多くの中〜重症の患児を救い2),今では,脊髄髄膜瘤児はその程度にかかわらず,何らかの治療を受けるようになり,生命予後は劇的に改善した2,3,5)(図1).
このように,約30年前では治療を受けられなかった併発症の多い中〜重症脊髄髄膜瘤にも治療対象が拡大されたこと4),そして,新たな療育システムの開始3)は,多くの子供たちの社会進出を可能にした(図1).そして今,それを確実にするためには,中〜重症例であるがゆえに生じ得る多くの併発症,想定外の二次障害に対する当事者的,社会的課題への対応が求められている.
脊髄髄膜瘤が重症であっても現在では治療が可能となったが,社会がその治療効果を有効にするためには,受け入れ体制の充実および社会適応能力の引き出しを十分行うことが大切である.つまり,子供たちが社会にスムースに入るために,多くの解決すべき課題があるということを認識し,現実的な方針を打ち出さなくてはならない.
自験例を中心に中〜重症脊髄髄膜瘤のいわゆる移行期医療(キャリーオーバー,トランジション)の課題と対応を二次障害とともに述べる(図2).なお,二分脊椎は潜在性と開放性に分かれるが,本項では症状の明らかな開放性二分脊椎を主な対象とした.
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