Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
高次脳機能障害という用語は,最も広く解釈すれば「失語・失行・失認のみならず,記憶・注意・意欲の障害・動作の持続の障害なども含み,さらに高次脳機能の部分的・要素的障害にとどまらず,認知症,意識障害などの脳機能の全般的な障害をも含める」1)と考えるのが妥当である.すなわち認知症・意識障害による認知機能の低下も包摂して高次脳機能障害の一部であるという定義である.もう少し解釈を狭めて認知症や意識障害を除外して,「認知機能低下が認められるもののうち認知機能の一部または大部分が残存しているもの」を指して「高次脳機能障害」と定義する場合もある.この定義によれば,「失語・失行・失認」などの巣症状や,本稿のテーマである「社会的行動障害」のみの障害などが該当することとなる.つまり認知症や意識障害などすべての認知機能が全般に低下するような病態は分けて考えようという立場である.さらに前2者とは切り口を異にする定義として「行政用語としての高次脳機能障害」が挙げられる.「行政用語としての高次脳機能障害」(診断基準については表1参照)の詳細については,「高次脳機能障害者支援の手引き」2)を参照されたい.この場合の「高次脳機能障害」という用語は,支援制度の名称を決めるうえでの便宜的名称として使用されている.この場合の高次脳機能障害という用語の解釈について,中島3)は「認知症が全般的な知的能力低下であることに対し,高次脳機能障害では能力低下に濃淡のある症例をも包摂することになる.したがって,種々の認知機能の障害をまとめて表現する用語といえ,神経心理学的検査で測定し,認知機能の障害がある検査で確定すれば,ほかの検査が正常であっても診察行為上は高次脳機能障害があるとなる.種々の症状の集合体で,『症候群』である.しかし,高次脳機能障害をもつ患者の示す病態はあまりにも多様で共通しているわけではないので症候群ではない.(中略)これら(行政用語としての高次脳機能障害)の症例が示す症状を認知症と比較すれば,記憶障害は共通しているものの診断基準に合致する症例では前頭葉症状が目立つといえる.その点で症例間にある程度の共通性があることから,行政的な高次脳機能障害には緩やかな症候群としての性質がある.」との解釈を示している.
このように「高次脳機能障害」という用語は,情報発信者の意図を,文脈によって受け手自身が解釈する作業を要す用語であり,医学の知識をもつ医療関係者においてすら難解な用語である.ましてや患者・患者家族を含む非医療関係者にとっては,ことさら理解しがたい用語であるといえる.適切な情報伝達が適切な医療・支援につながるため,われわれ医療者は,きめ細やかな説明・対応を要求されていることを理解しておかなければならない.用語の解説に稿をさいたが,本題である社会的行動障害に話を進めていく.
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.