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はじめに
「宇宙」という言葉からは,何が連想されるだろう.広大な銀河系,遥か彼方にある惑星や恒星,暗黒の空間,発射台から飛び立つスペースシャトル,勇猛果敢な宇宙飛行士,あるいは宇宙ステーションなどであろうか.「宇宙」という言葉は多くの人々にとって,ワクワクしながら思い思いのイメージを浮かべ,想像を膨らませる不思議な魅力をもつものであるに違いない.
生命科学(ライフサイエンス)の領域において,「宇宙」というキーワードによって括られる研究分野は非常に興味深い分野の1つである.1960年代末のアポロ宇宙船時代における宇宙飛行士は,エリート軍人から屈強な男性が主に選ばれていたため,宇宙飛行士といえば体力が人一倍あり,精神力も常人を凌駕しているようなヒーロー的な存在であった.しかし,各国が協力して建設した国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)が宇宙飛行士の活躍の舞台となった現在では,宇宙飛行士に求められる資質も半世紀前とは若干の違いがある.通常の飛行ミッションでは,各国の宇宙飛行士はISSという宇宙に孤立した限られた空間の中に約6か月間という長期に亘って滞在し,集団で生活をすることになる.飛び抜けて高い身体能力を保持していることは絶対条件ではなく,ある程度の健康基準をクリアし,ストレス耐性が高く,協調性と優れた任務遂行能力を有することが現在の宇宙飛行士には求められる.地球の重力環境から離れて宇宙に飛び立ち,無事地球に帰還するということに加えて,宇宙に滞在して安全に生活することが現代の有人宇宙開発における目標の1つである.長期間にわたる滞在任務を遂行するためには,宇宙という環境が宇宙飛行士の身体にどのような影響を及ぼし,どうすればそれを予防することができるのかを知る必要がある.宇宙をターゲットにしたライフサイエンス研究は,宇宙環境がどのように生命に影響を与えるかを観察し,そのメカニズムを探り,対抗手段(カウンターメジャー)を検討するための基礎的な研究である.
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