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はじめに
本稿の目的は血液循環の廃用症候群について宇宙医学の立場から述べることにあるが,最初に背景として,現在,宇宙開発事業団が推進している国際宇宙ステーション計画について簡単に解説する1).
国際宇宙ステーションは,高度約400kmの地球周回軌道上の恒久的で多目的な有人施設であり,1984年1月当時の米国のレーガン大統領の提唱により計画の検討が開始されたものである.1985年からわが国も参加して予備設計が実施され,1988年には米国,日本,欧州諸国(9か国),カナダにより宇宙ステーション構築に関する政府間協定が署名されて開発が本格化した.1993年には米国議会による予算の見直し等の理由により規模が縮小され,さらに同年からロシアが参加することが決定されるなど幾度かの構成の見直しがなされた結果,現在では図1に示すような外観となっている.
この宇宙ステーションは,両端に巨大な太陽電池パネルを持つトラス構造物の中心部に各国の製作するモジュールが結合する構成となっており,米国の実験用モジュール,居住用モジュール,ロシアの実験用および居住用モジュール,欧州の実験モジュールとともに,日本の宇宙開発事業団が製作する実験モジュール(Japanese Experiment Module: JEM)が結合する予定である.
現在の計画では,1997年に宇宙ステーションの建設が開始され,JEMの打ち上げが2000年前後とされており,2002年から10年以上にわたって軌道上で国際協力により運用される予定である.この時点においては,参加各国から派遣される7名の宇宙飛行士が3か月から6か月の長期滞在をする計画となっている.わが国にとって初めての経験である宇宙飛行士の長期宇宙滞在が2000年前後にも実現すると想定され,宇宙開発事業団としても医学的な観点から準備を行っている段階である.
ところで宇宙環境が人間に与える影響はさまざまなものがあるが,そのなかで生理学的に最も重要なものがいわゆる微小重力環境である.微小重力環境に長期間滞在することは,一般的にそれだけの期間臥床しているのと類似した効果を有することが知られている.本稿では宇宙での循環動態と長期臥床時のそれとの共通点について述べるとともに,結果として生じる廃用症候群としての起立耐性の低下について,若干の解説を試みることとする.
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