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はじめに
高齢者の誤嚥性肺炎は難治性でかつ再発しやすいことが知られているが,その原因は嚥下障害自体が重度であるからとは限らない.食物の嚥下は何とかできていたとしても,就寝中に口腔内の雑菌の誤嚥や胃内容物の逆流があれば誤嚥性肺炎が生じる.逆に,食物の誤嚥があっても,痰の喀出や体位変換が十分にできるだけの体力があれば,簡単には肺炎は生じない.
一方,体力の維持および肺炎からの回復には栄養状態が良好であることが重要である.そのため,嚥下障害自体は軽度であっても,食物の摂取量が十分でなく栄養状態が不良な患者においては,肺炎は難治性となる.したがって嚥下障害のある肺炎患者においては,肺炎そのものの治療や嚥下障害の対策と並んで,栄養管理がきわめて重要である.
また,高齢者,とくに脳血管障害や認知症を有する者では,嚥下障害に加えて,食事を拒否したり食べる意欲を失ったりすることにより,しばしば低栄養状態となる.また,高齢者においては,全身の骨格筋が減少するサルコペニア(sarcopenia)や,疾病その他のストレスに対して著しく脆弱となるフレイル(frailty)がしばしば認められる.高齢者の繰り返す誤嚥性肺炎の背景因子として,認知症やフレイルについての理解も欠かせない.
以上のように,誤嚥性肺炎を繰り返したり低栄養状態を呈したりする高齢者では,嚥下機能の障害そのものは必ずしも重度ではない.しかし,肺炎を繰り返すことや栄養状態を保てないこと,さらに生命予後が不良であることなどからは,まさしく重症嚥下障害者といえる.
本稿では,誤嚥性肺炎を繰り返す重症嚥下障害者の特徴と栄養管理のあり方について,倫理的側面を含めて解説する.
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