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はじめに
リハビリテーションの効果を促進するための新しい方法として,頭蓋の外から大脳に対して直流電気刺激を与える経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation;tDCS)が注目されている.
筆者がtDCSを目にしたのは2006年のことであった.ヒトの大脳可塑性研究で著名なNational Institutes of Health(NIH)のLeonardo G. Cohen博士の下でポスドクをしていたころである.そこで筆者は,大学院生時代から馴染みのあった経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation;TMS)を使い,運動学習の神経機構に関する基礎的な研究に従事していた1).tDCSを脳卒中患者の運動障害に最初に応用した研究室ということもあり2),tDCSを使った研究は当時積極的に行われていた.しかし,筆者のような基礎の研究者からみれば,TMSよりも時間解像度,空間解像度で分の悪いtDCSはまったく魅力的ではなかった.ところが,同僚のポスドクたちが,tDCSを使ってヒトの認知,運動,学習課題の成績を向上させる研究成果をラボミーティングで次々と報告しているのを目の当たりにして,考えを改めることになった.tDCSは脳の基礎研究にはそれほど向いていないが,脳卒中や神経疾患に対する機能的治療法として今後可能性があるのではないか,と考えるようになったのである.特に,複数日連続介入によって運動課題成績を数か月にわたって向上させたJanine Reisらのデータは,tDCSの臨床応用に関して非常に将来性を感じさせるものであった3).
そうしているうちに,あっという間に留学期間の2年は過ぎてしまい,結局tDCSを使った実験を筆者はNIHで行うことができなかった.そこで帰国後の2008年,東京大学に所属した筆者は,tDCSを使った研究を本格的に開始したのである.日本ではあまりtDCSが認知されていないなかで,日本語の総説4)や国際学術論文5,6)を報告したこともあり,幸いにも少なくない方々に注目していただいた.その後,基本的な使用方法や実験デザインの相談を受ける機会がたびたびあった.
本総説では,tDCSの今後の発展や普及を見据え,多くの方々が研究に参加できるための助けとなるように,まずtDCSの基礎知識に関して解説した.そして,相談されることが多かったtDCS研究の実際に関して,できるだけ詳細に解説を行った.
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