ホームヘルパー跳びある記・6
ある老画家のこと
星 美代子
1
1荒川村役場
pp.634-636
発行日 1977年6月1日
Published Date 1977/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918179
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昔,山腹の斜面の原生林を伐採し,雑草を焼いて畑地に変えることをこの地方ではサスといったのだそうである.村内に何々差(ザス)と呼ばれる部落名が今も幾つか残っている.私が今住んでいる部落の奥地に茗荷差(みょうがざす)という耕地があって,深く入りくんだ山ひだの間に,たった3軒の農家が谷川の響きにさらされるようにして建っている.都合の喧騒(けんそう)から逃がれるようにしてこの地に移り住んだ私は,その当時よくこの茗荷差を訪れては古老たちからいろいろな話を聞いたものであった.
雪の降る夜,えさを探してうろつく狐や猪,野猿たちの話,原野を焼く火につつまれてもなお最期まで逃げることをせず,ひなを抱いたまま死んでゆく‘野焼きの雉子’の話……,禽獣(きんじゅう)たちの必死な生きざまは,そのまま人にもあてはまる.凶作の苦しみをどこにも増して深く味わったのは,耕地面積の乏しいこの地の先祖たちであり,現在の若者のひ祖父たちはくわを捨て武器をとって蜂起した.
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