随筆
御誠実
春 三
pp.52-53
発行日 1960年11月1日
Published Date 1960/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202029
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ちかごろ特に目立つたことは,次々に方々の病院で賃上げ争議がおこつたということである.ある日のテレビニュースで,白衣をまとつた看護婦さん達が鉢巻姿でスクラムを組み労働歌を高唱する有様は我々の関心をおこさせるのに充分であつた.これらの争議は,いずれも待遇改善を目的として行われたのであろうけれども,病院の争議はどんな場合でも経営者側をこまらせるより以上に患者側により多くの迷惑と有形無形の悪影響を与えることはわかりきつたことである.
病気に罹つた患者の身になつて考えると,医師や助産婦,看護婦は救いの主であり,その一挙手一投足について敏感であるわけで,街での郵便切手や煙草をうつている商人でもいやらしく感ずることもままあるが,こう言うのとは格段の相違があるらしい.——入院していた或る患者が朝の検温の時のありさまを話してくれたのを想い出した.或る看護婦はお早うございますと顔をほころばせ,いかがですか,と言つて,入つて来て近づいてから,検温して下さい,と言つて検温器を差出したし,又ある看護婦は入口で検温ですと言つて何にも言わずに検温器を出したし,ひどいのはノックせずに戸をあけて「これ」と言つて床頭台の上に検温器をおいて行つたものもあつたという.これは忙しかつたのではなく,3日間ずつ同一人でこの様であつたということである.この患者は更に話しつづけた.検温はまあ話で大したことはなかつたが.
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