Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
客体や自己の身体部位を用いてまとまりのある形態を構成する能力の障害は脳損傷患者にしばしば認められる障害であり,構成失行(constructional apraxia),あるいは単に構成障害(constructional impairment)と呼ばれている.初期の研究では,構成障害の責任病巣は左半球の頭頂葉であると考えられていたが,Patersonら8)が右半球頭頂葉病巣でも構成障害が生じることを報告して以来,いずれの半球の障害でも生じるとされている9,11).
この障害の検査課題としては,1)自発的な自由描画,2)図形の模写,3)マッチ棒パターン構成,4)積み木構成,5)空間分析に関する検査,6)三次元構成,7)パズル再構成などが一般的である10).
島田11)は,これらの課題で認められる障害の特徴として,1)描画の線の歪み,2)図形の単純化,3)形態としてのまとまりの欠如,4)図形の回転,水平,垂直の異常,5)図形の極端な巨大化,縮小化,6)三次元図形の二次元化,7)与えられた紙面の一方への偏り,紙面をはみ出す,8)モデルを構成物の一部に組み込んでしまう(closed-in),などをあげている.
しかし,それらの検査を実施する際,左半球損傷患者では右上肢に麻痺や巧緻性の障害などの運動障害があることが多く,非利き手である左手で行わせる場合が少なくない1,2).筆者はこれまで,左半球損傷患者の左手での描画の評価を行うたびに,健常者でも利き手でない左手での描画には困難が伴うのではないか,もしそうならばこれまで左脳損傷による構成障害の症状とされてきたもののなかには,単なる左手描きの特徴が少なからず含まれているのではないか,という疑問を抱き続けてきた.
ところが,最近,その問題を直接的に検討した研究が発表された.カナダのZachariasら12)は,30名の健常高齢者に,実際の患者と同じ描画検査(Western Aphasia Batteryの自由描画課題を独自の方法で採点)を左手と右手で行わせ,その成績を比較した.その結果,左手の描画は,右手の描画と比較して単純かつ大まかであり,線の振るえや歪みが目立ち,また全体的な質においても明らかに劣っていた.この結果は,従来は左半球損傷による構成障害患者の描画の特徴とされてきたもののなかのかなりの部分が,単なる左手描きの一般的な特徴であった可能性を示唆しており,構成障害やその左右差に関する従来の論議に大きな疑問を投げかけるものである.
そこで,今回の研究では,日本の右利き健常大学生を対象として,左右の手の描画能力を比較検討した.
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.