Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
白居易の『病中詩』―生老病死の受容
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.478
発行日 2001年5月10日
Published Date 2001/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109496
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中唐を代表する詩人白居易(772~846)は,開成4年10月,68歳の時に「風痺の病」を得て,眩暈や左足麻痺,肘の痺れ等の症状が出現するが,その時の心境を,一連の『病中詩』(『白楽天全詩集第四巻』,佐久節訳,日本図書センター)の中で,次のように語っている.
まず白居易は,脳卒中の後遺症を思わせる障害者になりながら,「若し楽天に病を憂ふるや否やと問はば,天を楽しみ命を知りて了に憂ふる無し」(楽天に病を憂ふるや否やと問ふ者あらば,天を楽しみ運命に任せているから,憂ふることはないと答えよう)と,文字通り楽天的に構えている.なぜなら,「世間には生老病相随ふ,此事心中久しく自ら知る.今日行年将に七十ならんとす,猶ほ須らく慙愧すべし病来たるの遅きを」(人生には生老病の三者が常に相随っているものだといふ事は遠の昔から知っている.今日は既に七十に垂んとしているのだから,実は病の来るのの遅いのを感謝してよいのだ)と,人生に病は付き物であり,むしろこの年まで患わなかったことに感謝すべきだからである.そのうえで白居易は,「家には憂累無く身には事無し,正に是れ安閒好病の時」(家には何の煩累もなく身は無事であるから,病気になるには誠に好機会である)として,老後の今こそが,病気になる好機だと語るのである.
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