鏡下咡語
生老病死
佐藤 武男
1
1大阪成人病センター
pp.434-435
発行日 2000年6月20日
Published Date 2000/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411902203
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生老病死という言葉は仏教でいう四大苦悩のことである。日本人は自然万物の中に神が宿るという「自然宗教」を信じてきたが,この生老病死を日本の自然の中に歳々年々繰り返される春夏秋冬の四季変化と重ね合わせながら,素直に四苦の中のリアリティを認識してきたのである。
この20世紀末に至って,自然科学の領域から眺めた生老病死の説明はどうなっているのであろうか。それは主として分子生物学,生命科学の分担であって,そのテクニックには遺伝子工学,バイオテクノロジーが用いられる。現在までの情報を私なりに理解すると,次第に生命とは何か,死とは何か,老いとは何か,ヒトは何故死なねばならないのか,癌とは何かなど生命現象の深層にある落とし穴に入ってゆくような気がする。既に1997年の情報では,正常の受精なしに単一の遺伝子だけのクローン動物が誕生している。まさに神の領域にまで踏みこんでしまったような気がする。科学は倫理を生みにくく,これは物理学が原子爆弾を生んでしまったごとく,科学そのものは無限に自己膨張するという欠点をもっている。
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