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はじめに
運動障害をもつ精神分裂病者において,リハビリテーションに導入したり進行させることに難儀し,労力や手間をかけたわりには結果が思わしくなかったりすることがよく経験される.評価や働きかけをしなかった(身体の)急性期には,精神症状は比較的落ち着いていたのにもかかわらず,リハビリテーションが始まると不安感や被害関係妄想が目立ち始め,リハビリテーションを中断せざるをえないことがしばしばある.リハビリテーションでは評価のためにあえてできないことに直面させる.また,リハビリテーション自体が新規学習であり,それまでの患者にとって未知のものである.しかも,訓練スタッフとの交わりの中で身に付けなければならない.通常の医療では一つの病棟内で,医師と君護者の2者との関わり合いだけであるのに対して,リハビリテーションでは病棟外の訓練室に移動したり,理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)などさまざまな訓練スタッフが入れ替わり関わる.身体的密着度も高い.(彼らにとって身体的密着による安心感と,自己への侵入の恐怖が同時に存在しうる.)対人関係の病を持つ彼らにとっては,ストレスがかかり,混乱しやすい,不安や焦燥が目立つようになったり,被害的になったり,逆に引きこもりを助長したりする.再発に至ることもある.
精神分裂病の発現頻度は人口当たり0.7~0.8%で,ありふれた病気である.そして,1)自殺未遂による多発骨折,胸腰髄損傷,脳外傷,切断,熱傷,2)昏迷状態や無為,あるいは悪性症候群による長期臥床を原因とする廃用症候群,3)非分裂病者と同様の脳血管障害,リウマチ,大腿骨頸部骨折など,多くのさまざまなリハビリテーション対応が要求される.健常人と同様に順調にリハビリテーションにのる患者もいるのだが,残念なことに,そういかないことも多い.
本稿では,まず精神分裂病について概略し,リハビリテーションに日常的に接している精神科医の立場で,対応法についてなるべく分かりやすく,具体的に述べたい.なお,幻覚妄想や興奮が激しい急性期に本格的なリハビリテーション関与は困難である.本稿では,精神科的には急性期を過ぎた,リハビリテーション対象となることが多い時期の患者を想定して述べる.自殺未遂直後など急性期のリハビリテーション対応については,別稿1)を参照願いたい.また,最近ではPTジャーナル2000年6月号(医学書院)にて「精神疾患をもつ患者の理学療法」の特集が組まれていて,精神分裂病合併例への対応についてわかりやすく述べられているので併読願いたい.
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