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はじめに
ベッドレストの研究は1920年代から始められたが1,2),リハビリテーションの視点からすると,Thomoson3)が,心筋梗塞の手術や治療後,患者を4~6週間ベッドレストに曝露すると臨床上のリスクファクターが増加することを観察し,ベッドレストの循環系機能に及ぼす有害性を初めて指摘したことから始まる.
Deitrickら4)は,長期間のベッドレストがもたらす身体的および精神的影響が体力を低下させることを実験的に初めて示したが,ベッドレスト研究の生理学的,病理学的意義については,1965年にBrowseが“The physiology and pathology of bed rest”5)で初めて言及した.そして,長期のベッドレストが疾病の回復のみならず社会生活への復帰をも遅らせるので好ましくないという考えは,Steinbergが著した“The immobilized patient:Functional pathology and management”6)によって定着したと考えられている.
ヒトの身体不活動は,完全不活動と不完全不活動に分けられ,完全不活動は宇宙か水中での無重力環境下で成立するが,地上では,たとえベッドレストを維持しても,重力に対して何らかの抵抗活動を生体は常に起こしているので不完全不活動状態である.
このベッドレストが長期に及ぶと生体と機能が身体不活動と微小重力に適応してしまい,ヒトの正常な生活習慣のなかで健康を脅かすリスクファクターを増やしてしまう.とくに,身体的には骨格筋の不使用と血行動態の脱静水圧,精神的には身体運動に対する脱意欲を作り出し,結果的に身体の生理機能と精神機能に有害な影響をもたらし,physical fitnessもまた低下してしまうのである.
さて,わが国でphysical fitnessは「体力」と訳されているが,欧米での考え方は,「physical fitnessとは特定の条件をもとに満足に筋作業を遂行しうる能力」という国際保健機構(WHO)の定義7)に集約される.すなわち,physical fitnessは作業能力(physical work capacity;PWC)のことである.本稿では,このphysical fitness=作業能力を「体力」とみなして,論を進める.
その体力は,主観的な運動遂行能力の限界(Perceived exertion),最大有酸素的パワーと全身持久力,最大無酸素的パワーおよび容量,最大筋力と筋持久力,神経筋の協応性が関与する8).しかし,この「体力」の本体は,エネルギー源の再合成量の視点からは最大酸素摂取量,またエネルギー源を利用して作業を表出するという視点からは骨格筋の機能,すなわち筋力と筋持久力である.
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